1)外見と心身の密接な関係
 高齢者や顔にトラブルのある方に対するメイクの実験で、血液や唾液の中の免疫物質が増加したという報告があります。でも全員の方に有効だったわけではありません。「私ってなかなか素敵!」とポジティブにとらえて楽しんだ方だけに表われた効果でした。外見を装えば免疫力が上がる、という単純なものではなく、気分の持ち方が重要な働きをしています。
 このコーナーでは、手軽に、安く出来る工夫をご紹介したいと思います。治療の時だけパートタイマー患者、それ以外の時間は、今まで通り。おしゃれも上手に取り入れて、心が活き活きする快適な治療生活をお送りください。



  2)外見と人の行動
 人は、知らない間に、自分の思っていることに影響されて行動しています。例えば、とても高いウィッグをつけているのに、どこか不自然に見える方がいます。反対に、とても安いウィッグなのに自然で素敵に見える方がいます。この違いは何でしょうか。もちろん、つけ方の工夫もあります。しかし、「自分はウィッグを被っている。バレてしまうに違いない。どうしよう。」と思っていると、つい相手との話し合いで視線をそらしたり、不自然な姿勢をとったりします。いつもの堂々としたその人らしくなく、外から見たら少し挙動不審かもしれません。それがかえって周囲の意識をその人に集中させてしまうのです。せっかくつけるのなら堂々と、「私くらい似合う人はいない」と思ってウィッグを楽しみましょう。

  1)なぜ抜けるの?
 がん細胞は、分裂が早いという特徴があるため、一般的な抗がん剤は、分裂が盛んな細胞を攻撃するように作られています。その結果、分裂の早い毛母細胞も抗がん剤に攻撃されてしまい、脱毛が起こります。



  2)髪の脱毛
1. 経過
   一般には治療開始後約3週間で抜け始めます。治療終了後、間もなく育毛が再開しますが、もとのショートカットに戻るには半年から一年かかります。最初に生えてきたくせ毛は、伸びてカットを重ねて行くうちに元の直毛にもどります。
2. 髪についての神話
   ベビーシャンプーが良い、反対に、ベビーシャンプーでは十分に頭皮の汚れが落ちない、など、脱毛中の髪の手入れや脱毛後のケアについては、さまざまな神話があります。しかし、実際は、その多くがエビデンスに基づくものではありません。地肌に優しい製剤を使うこと、頭皮を強くこすらない、清潔に保つことがきちんとできていれば、よい手入れ方法といえます。また、髪染やパーマは、頭皮の状態が抗がん剤の衝撃から回復しているか、つまり湿疹や肌荒れがなくなったか、が判断のポイントになります。
3. 抗がん剤治療開始前の準備
 
◎ヘアカット
 人間の毛髪は10万本以上生えています。そのため、可能なら、髪をショートカットにしておいた方が、抜け毛の分量が少なく、それを拾う心と身体の負担も軽くなります。また、ウィッグへの移行に気づかれにくくするためには、治療前にウィッグを購入し、その髪形に似せたスタイルに予め自毛をカットしておくことをお勧めします。まずは前髪のある自分の顔に慣れることも大切です。
◎ウィッグ選びのポイント
耐久性と通気性 医療用ウィッグと称されているものは、比較的耐久性と通気性に優れていますが、一般のウィッグの中にも高品質のものがあり、名前に惑わされる必要はありません。また、高額のものでも、長く使ったり、手入れ方法が悪いと、必ず痛みます。実際につけてから、着け心地、自分に似合うデザインかで選びましょう。
使用頻度 毎日の仕事で長時間使う方と、外出はあまりせず日常は帽子で過ごしている方では、ウィッグに求める要素や金額も変わるかもしれません。ご自分のライフスタイルに合わせて、品質や価格のバランスを考えましょう。
価格 価格はさまざまですが、一般的に人毛割合が多いほど価格が上昇します。オーダーメードは制作に約1カ月かかり、40万円から100万円くらいです。参考までに、患者さんからよく聞く購入価格は、数万円〜20万円です(2010年現在)。
その他の注意事項 手入れ方法は、人毛か人工毛かで異なりますので、購入時によく説明を聞きましょう。また、ウィッグは静電気で痛み、一度痛むともと通りにはならないので、上から帽子を被ったり、首元のマフラーなどと擦れないように注意しましょう。
 
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4. ウィッグ以外の工夫
   自宅にいるときや、ちょっとした外出には、帽子、バンダナ、フィットキャップなどを上手に使いましょう。頭の負担も楽ですし、ウィッグも長持ちするようになります。また、つけ毛などはインターネットでも簡単に購入できます。例えば「つけ毛、がん」で検索してください。頭皮の保護と保温目的のためには、綿、ジャージー、ニットなどの吸湿・保温に優れた素材が望ましいです。
 
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  ◎安価な手作りキャップをご紹介します。 
 
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  3)眉毛・まつ毛の脱毛
1. 経過
   眉毛やまつ毛の脱毛は、頭髪が脱毛した人全員に生じるわけではありません。経過としては、髪が脱毛してから1カ月位後に始まり、髪の毛より早く生えて来ることが多いようです。しかし、眉毛やまつ毛が脱毛すると、ホコリが入りやすくなったり、顔の印象がぼやけて容貌の変化を強く感じてしまうことがあります。
2. 眉毛のカバー方法
   眉毛やまつ毛が脱毛する時は、顔のむくみを伴うことが多いので、いつも通りに眉を描いても自分の顔に思えないことがあります。顔の印象が変わり、眉の太さが分からなくなることが原因ですから、治療前に自分の化粧した顔写真をとっておくのがお勧めです。
 より自然に見える眉の描き方は、ペンシルで眉毛を1本1本描くように細かく置き、そのうえからパウダータイプのアイブローでぼやかすように載せることです。でも体調の悪い時は、筆でパウダーアイブロウを眉毛のあるあたりに薄く載せるだけでも十分です。また、市販の眉シートを使い、左右対称に描く方法もあります。
 
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3. まつ毛のカバー方法
   縁のハッキリしたメガネや淡い色の大き目のファッショングラスをかけると、ゴミやホコリが入るのを防ぐだけでなく、薄毛も目立ちにくくなります。簡便にアイライナーを引く方法もあります。
 フォーマルな場所への外出時は、付けまつ毛を利用する方法もありますが、脱毛後の生え際への固定は、はがれやすいので、練習が必要です。ただ、治療中は、皮膚が敏感になっていることが多いので、事前に接着剤を上腕の内側につけ、皮ふかぶれが起きないかをチェックしましょう。
4. その他の脱毛
   治療によっては、手足などを含めて全身の体毛が脱毛することがあります。鼻毛が脱毛した場合、鼻水も予告なしに流れやすくなるので、外出の際はマスクなどを有効に使いましょう。 


  1)皮膚のトラブル
1. 経過
   抗がん剤の治療により、乾燥・変色などの皮膚トラブルが生じることもあります。とりわけスキンタイプが敏感肌の方には、症状がより強く出ることがありますが、乳癌患者さんの多くは、従来通りのスキンケアとメイクアップで対処できるレベルの方がほとんどです。もし、かゆみや発疹が出て困った場合は、皮膚科に相談しましょう。
2. スキンケア
   清潔、保湿、刺激を避けることは、スキンケアの基本です。特に保湿はいつもよりたっぷり、意識的に行いましょう。スキンケア製品は通常使用しているものでかまいません。ただし、治療によって肌が敏感になった場合や肌トラブルが不安な方には、敏感肌用やアトピー肌用の製品を選ぶことをお勧めします。また、化学療法中は肝臓がダメージを受けたり、紫外線の影響も受けやすくなるので、シミが増えることがあります。日焼け止めや日傘など、簡単にできる日焼け対策は十分におこないましょう。
3. メイクアップの工夫
   皮ふにトラブルが出なければ、今まで通りのメイクアップでかまいません。顔色がさえない時は、イエロー・ピンク・オレンジなどのコントロールカラーを薄く入れたり、チークを積極的に使いましょう。表情が明るくなります。
とりわけ闘病中、体調が悪くてお化粧どころではないという方も、スキンケアの後、パウダーアイブロウで眉のあたりを少し濃くして、頬にチークをさすだけで、健康的に見えます。お見舞いに来た方が「なんだー、心配してきたけど、元気そうね。」と言ってくれたらラッキーだと思ってください。自分のイメージは自分一人でできるのではありません。他人の言葉や評価を取り込んでできるのです。あなたの中に、元気な自分が生まれるチャンスです。
 
メイク前
メイク後



  2)爪のトラブル
1. 経過
   爪に変化が生じるかどうか、どのような変化になるか、これは治療方法によってさまざまです。爪の変化は、一般に頭髪の脱毛より1カ月くらい遅く始まり、完全に元通りになるのは抗がん剤治療終了後、手で半年、足で1年が目安となります。
 白線・黒線・二枚爪など、爪の色や形の変化にはかなりのバリエーションがあるので、自分の爪がどうなって行くか不安をもつ方もいますが、治療後は回復しますので、心配し過ぎないことが大切です。唯一気をつけなければならないのは、切り傷ができて、そこからばい菌が入らないようにすることです。浸出液があり、炎症の可能性がある場合は、皮膚科を受診しましょう。
2. 爪の保護の工夫
   弱った爪には、爪切りより爪用やすりを使用して先端を整えます。ただし、爪甲は薄く弱くなっているので磨かないようにしましょう。
 引っかけによる損傷予防のために指先に紙テープを巻いたり、手袋を用いるのが有効です。手袋は、用途によって綿や絹素材の手袋、水仕事も可能なナイロンメッシュ手袋があります。
 ハンドケアと同時にトリートメントクリームでマッサージするなど、爪の保湿をします。
 また足の爪のトラブルの場合、素足を避け、靴はゆったりしたものを選びます。ご家族に足の水虫の方がいる場合も気をつけましょう。抗がん剤と作用がぶつかる飲み薬は使えないので、長期化・重症化しやすいからです。
3. マニュキュアの活用
   爪の変色が気になる場合はマニキュアをしましょう。ベースコートの上にベージュやピンク系カラーが一般的ですが、治療で皮ふの黒ずみが目立つ時は日本人に肌馴染みのよいレンガ色などを使うと目の錯覚で皮膚も白く見えます。リムーバー(除光液)はコットンにたっぷりしみこませ、こすらずに爪に5秒ほど乗せひと拭きします。その後石鹸で手をよく洗い、保湿すると、爪の傷みが少なくなります。
 爪に段差が生じたにもかかわらず、フォーマルな場所へ出席しなければならない時は、付け爪(100円ショップなどで購入可)を適切な長さに切って、爪用の両面テープで装着します。その上からマニュキュアを塗ることで、1日は状態が保てます。




 手術後のブラジャーなどの下着については、病院にパンフレットを置くメーカーも増えましたが、インターネットで「乳がん、下着」で検索すると、多くの取扱い店が見つかります。最近は長く使用できるオシャレなデザインのブラジャーが増えてきました。
 ここでは、術後や家にいるとき、あるいは、放射線治療で落ちる皮ふへの対策として、術前に使用されていたブラジャーを用いる方法をご紹介します。まず、出来る限り薄い綿100%の下着を素肌に着用します。100円ショップにあるタンクトップでも構いません。レースなどの飾りはついていないものの方が、かゆみを生じる危険もないのでより良いでしょう。その上から、ご自分のブラジャーを一番ゆるくつけます。下着をつけることでブラジャーが傷を刺激しないこと、カップ部分にハンカチなど何でもご自分にフィットしたものを調整しながら挿めること、放射線の治療で落ちる皮ふをキャッチできることなどのメリットがあります。もちろん、その上から透けない服を着ることをお忘れなく!


文責:山野美容芸術短期大学教授 野澤桂子


◎参考文献

1) 野澤桂子・ 和泉秀子
  『見変化のケア』看護技術10月号
メジカルフレンド社、 2010、p31-33
2) 野澤桂子
  『病院における外見という課題』メイクセラピーガイド
フレグランスジャーナル社、 2008、p174-177
3) がん患者 サービスステーションTODAY! 編集部
  『体験者が伝える乳がん安心!』生活BOOK、VOL-NEXT、2007