化学療法に伴う卵巣機能障害
化学療法中には、抗癌剤の卵巣への直接もしくは間接的影響により、その機能が低下し、月経が停止することがよくあります。Chemotherapy-related amenorrhea:CRAと呼ばれます。
乳癌化学療法で標準的なアントラサイクリン系薬剤(AC/FECなど)、タキサン系(ドセタキセル、パクリタキセル)、CMF療法などの点滴抗癌剤ではほぼ100%の頻度でCRAが起こります。
抗癌剤治療が終了すると、元の卵巣機能が戻り月経が再開しますが、そのまま閉経を迎えることもあります。月経の回復には年齢やその後の内分泌(ホルモン)療法が影響するといわれています。
ホルモン感受性のある乳癌(ER陽性乳癌)では、卵巣機能が停止した状況は、再発を予防するという治療的側面からは望まれることではあります。
しかし、卵巣機能の障害は、妊娠を不可能にするだけではなく、早い年齢で閉経し、女性ホルモン(エストロゲン)の低い期間が長く続くと、女性の体の健康に与える影響も懸念されます。特に、骨塩量の低下で骨粗鬆症が進行したり、心臓や血管の動脈硬化などに関連する疾患のリスクの増加が考えられます。
QOLを重視した乳癌治療の重要性が認識される現在、化学療法による再発予防と同時に体への影響(卵巣への影響)を最小限に抑えることも大切を考えられるようになってきました。
その卵巣機能を守る方法として、LH-RHアナログ*を化学療法開始2〜4週前から終了までの期間、化学療法と一緒に使用する工夫がこれまで報告されています。
ここでは、化学療法中の卵巣機能保持の工夫として、LH-RHアナログの現状について紹介します。
   
 
*LH-RHアナログ: 閉経前乳癌の治療で卵巣機能を停止する薬剤で、Zoladex(R)やLeuplin (R)が我が国では使用されます。
   
   
  LH-RHアナログによる卵巣機能保持について
現在この評価については、臨床試験が進行中であり、議論の分かれるところです。また、 Zoladex(R)、Leuplin (R)ともに、卵巣保護については保険適応が認められていません。またこの工夫を行ったとしても、月経が100%戻ることは保証できません。
日本乳癌学会編集のガイドラインには以下の様に記されています。
 
ここでガイドライン紹介の内容を挿入する予定です。
【 推奨グレードC2】
過去にいくつかの報告があるのですが、最近ドイツからZORO試験の結果が報告されました。ZORO試験は、乳がんの患者さんを、化学療法だけを行う人と、化学療法中にLH-RHアナログを併用する人の2グループにランダムに分け、月経が戻るかどうか検証した世界で初めての比較試験です。
その結果では、LH-RHアナログを使っても使わなくても化学療法が終了後6-7カ月の間に約9割の患者さんで月経が戻ることが示され、この効果に疑問視されています。
   
  ZORO
 
ZORO: A prospective randomized multicenter study to prevent chemotherapy induced ovarian failure with the GnRH-Agonist Goserelin in young hormone insensitive breast cancer patients receiving anthracycline containing (neo-) adjuvant chemotherapy
 
Bernd Gerber (Klinikum Südstadt, Universitätsfrauenklinik, Rostock)
Gunter von Minckwitz (German Breast Group, Neu-isenburg, Germany/Senologic Oncology, Breast Center, Düsseldorf)
Heinrich Stehle (Vinzenz-von-Paul-Kliniken GmbH, Marienhospital, Stuttgart)
Ricardo Felberbaum (Klinikum Kempten Oberallgau gGmbH)
Nicolai Maass (UFK Aachen)
Dorothea Fischer (Universitätsklinikum Schleswig-Hoistein, Lübeck)
Harald Leo Sommer (Ludwig-Maximilians-Universität München)
Bettina Conrad (Elisabeth Krankenhaus, Kassel)
Keyur Mehta (German Breast Group, Neu-isenburg, Germany)
Sibylle Loibl (German Breast Group, Neu-isenburg, Germany)
 
Kaplan Meier Curves for patients with regular menses after chemotherapy
   
  LH-RHアナログによる卵巣機能保持について
以下に大阪医療センターでの経験と解析を示します。
化学療法後の月経の回復には年齢が影響し、35歳未満であれば約9割で月経回復するのに対し、35歳以上45歳未満では約6割程度でした。
 



35歳未満では、化学療法にLH-RHアナログを使用しても使用しなくても同じ割合で月経が回復しました。
 



35歳以上45歳以下では、化学療法にLH-RHアナログを使用した方が、より月経の回復が期待できました。
 
  最後に
以上のように、化学療法に伴う卵巣障害を予防する方法として、LH-RHアナログの使用という方法が考えられますが、その効果についてはまだ確実に定まったものではありません。担当の先生と十分に相談してください。